平成8年度 教材の工夫と授業の改善
微小生物の培養・観察法

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3 参 考

1)赤エンドウ豆による培養法

材料
   赤エンドウ豆 1合 120円位 
   スティグマステロ−ル(5mg/ml: EtOH)
   脱イオン水
   餌用バクテリア Klebsiella pneumoniae
   Na−リン酸緩衝液(組成は後述)

赤エンドウ豆エキスのつくり方
 赤エンドウ豆,約20 gをフラスコに入れ,脱イオン水(DW, もしくは蒸留水)を600〜700mlほど加える。これに100% EtOHに溶かしたスティグマステロ−ルを約4 ml,フラスコをかきまぜながら加える。かきまぜながら加えるのは,スティグマステロ−ルは,水に不溶性なのでなるべく細かい粒子として分散させるためである。フラスコは直ちに白濁するが,このままオ−トクレ−ブ(加圧滅菌)する。
 このときリン酸緩衝液(後述)を混ぜてオ−トクレ−ブすると,豆がくずれず,中の養分が十分外に溶けださない。そのため,緩衝液の添加は原液を希釈する際に行う。また,スティグマステロ−ルを加えるのに使用したピペットはそのまま水につけるとスティグマステロ−ルが,壁面にこびりついてしまうので,いったんエタノ−ルで内部を洗浄してから水につける。
 オートクレーブした後の豆エキスは室温で長期間保存可能である。

培養液のつくり方
 赤エンドウ豆のオ−トクレ−ブ後,冷却したものを用いる。固形成分があまり多く混じらないようにガ−ゼを使い(なるべく厚く重ねる。8枚以上),上澄みの部分のみを丁寧に漉し取る。このとき固形成分の混入はできるかぎり少ない方が良いので,沈澱した固形成分の多い残りは捨てる。これにより漉し取った後のエキスの量は 500 ml程度に減る。次に,この液にリン酸緩衝液(後述)を 128mlを加えた後, DWを加えて800 mlの原液とする。
 この原液 100 mlを DWで希釈して 800 mlとした上で(したがって一本の原液から8本の培養液ができる),再びオ−トクレ−ブする。滅菌後,スラント培養したバクテリアと滅菌したCaCl2(後述)を加え,約1日後に使用する。
バクテリアの加え方
 培養液の作成において最も注意しなければならないのは,作成過程での雑菌の混入(通称コンタミ)を防ぐことである。コンタミがおきてしまうと,おなじバクテリアなので見た目ではわからないのでそのまま,培養液として使うと次第に培養状態が悪化し,実験にならなくなる場合もある。したがって,できうる限り,コンタミが起こりえない状態で培養液作りをすることが望ましい。
 そのためには,無菌室で作業を進めることが最良だが,それもままならない場合は,さまざまな工夫をすることが必要となる。筆者は,後述するカルシウムを加える際にあらかじめカルシウム液をスラント内に注ぎ入れ,バクテリアを火で焙った白金耳でそぎ落として,カルシウム液とともに培養液の中に加えている。こうすると,培養液の蓋を何度も開け閉めせずに一度にカルシウムとバクテリアを加えることができるので,それだけ,(蓋の開け閉めによる)コンタミの起こる確率を減らすことができる。

全体図

えんどう(あかえんどう)
 Pisum sativum L. var. arvense Poir.[まめ科]
 ヨ−ロッパ原産で畑に栽培される越年草本で,秋に種子をまく。茎は高さ1m内外,円柱形で無毛,中空で直立する。葉は互生して葉柄があり,葉質はやわらかく,1〜3対の小葉をもった羽状複葉で,先端は分岐した葉ひげとなり,茎が直立するのをたすける。豆果は線状長楕円形,種子は5個くらい生じ,やや4稜があり,褐色で食べられる。[日本名]エンドウは漢名,豌豆の音よみである。現在一般にエンドウというのは,花が紫色の本種と,白色花をもつシロエンドウの両方を指す。農業品種としてはシロエンドウの他に,アオエンドウ(グリ−ンピ−ス)サヤエンドウがあり,広く栽培されている。古名ノラマメ。
 種としては,いわゆるグリーンピースと同じ Pisum sativumに属する。品種が違うだけのようである。アカエンドウマメは乾物屋で入手できる。多くは輸入品で輸入先も様々である。また,同じアカエンドウマメでも実際には購入の都度,微妙に性質が変化するので,アカエンドウマメの中にも細かな品種の違いがあるようである。


Na−リン酸緩衝液の組成
 これは,前述したドリル(Dryl)氏液から Ca成分を除いたものの 50倍濃縮液である。使用時に 50倍に希釈する。Caを別に滅菌するのは,Ca を加えたままで滅菌するとCaとリン酸が反応してリン酸カルシュウムの沈澱ができてしまうためである。
                      最終濃度
     クエン酸ナトリウム   100mM(2.0mM) 29.4g/l
     リン酸1ナトリウム    30mM(0.6mM)  4.7g/l
     リン酸2ナトリウム    70mM(1.4mM) 12.5g/l
                              pH 7.0
参考:  滅菌後に加えるCaは,下のものを6ml/800mlとする
     CaCl2       200mM(1.5mM) 22.0g/l

 このカルシウム液も事前に滅菌して保存しておく。筆者は,一回分ずつをスクリューキャップ付試験管(16×125mm)に分注して滅菌し保存している。こうすると,大容量で保存しておく場合に生ずる操作過程でのコンタミをなくすことができる。

スラント(斜面寒天培地)の作り方
 これは,一般のバクテリアのスラント培養の仕方とおなじ。簡単にいうと,バクテリアの培養液(前述の L-brothの他,なんでもよい。Klebsiellaは大腸菌と同様,最小培地で生育できるので,大概の培養液で育つ。)に寒天を1.5 %加えたものを溶かし(オ−トクレ−ブを使うと良く溶ける),これを適量試験管にいれ,栓(*)をした上で滅菌する。
 滅菌後,試験管を斜めにして寒天を固まらせる。これが,いわゆる斜面培地である。これに,白金耳でバクテリアを移植して培養する。一晩たつと白金耳でなぞった後にバクテリアのコロニーが線状に現われる。一般的には,これに培養液を少量加え,バクテリアを白金耳を使って懸濁させた上でもとの培養液に戻す。しかし,筆者は,前述したようにカルシウム液と一緒にして加えている。
*栓としては,綿栓が古くから使われてきたが,最近では,シリコン性のものがよく使われるようになっている。いわゆる「シリコ栓(シリコンをスポンジ状にしたもので,通気性がある栓)」が手頃だが,シリコン性のダブルキャップ(折り返しのついた栓)でも構わない。

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