失敗した実験
2017.07.12からスタートした実験。単離した細胞を無菌状態の液肥(注)で培養しようとしたが,
1回分裂(1→2)するまでに1ヵ月余かかった。以後,次第に手入れ(定期的な培養液の交換など)が面倒になり
(他にも色々やることがあるので),放置する期間が長くなった。
これが大きく影響したと思うが,分裂は途中で止り,ちょうど3ヵ月後のこの日,廃棄した。
かりに分裂が続いたとしても,この時点では4〜8匹にしか増えていないはず。
単離培養はつらいというか,極めて困難。
液肥での培養は,微細藻のコンタミが問題だった,xx:xx
9月以降も,様々な S. pyriformis (採集地が異なる)を様々な条件の液肥(様々な濃度のエコゲリラ,ハイポニカ,HypoNex)
で培養を試みた。当初は良く増えたが,次第に増殖が止り,一部は絶えてしまうものも現れた。
最初は「増えたのは,いわゆる carry-over 効果によるもので,基本的には液肥だけでは無理なのかも」と諦めかけた。
しかし,不思議なのは総てがダメになるではなく,元気に増え続ける(といっても1ヵ月に1回程度しか分裂しないが)ものも
あったことだ。もし,液肥だけでは駄目(増殖できない)ならば,すべてのS. pyriformisが2,3回分裂後に絶えてしまうはずだが,
そうではないのだ。
次第にわかってきたのは,以前はほとんど無視できていた微細藻のコンタミが,液肥培養では災いをもたらしているということだった。
当初,S. pyriformisはキロモナス+養命酒+KCMで培養していた。
キロモナス+養命酒+KCMには,かなり栄養分が含まれるので,混入しているバクテリアが増えやすい。
バクテリアが増えすぎると,S. pyriformis には良くないのだが,餌となるキロモナスを控えめに与え(
キロモナスを多く与えても少なく与えても細胞分裂は早くて3週間,通常は1ヵ月に一度しか起きない。
多く与えても無駄にコンタミバクテリアを増やすだけで,無意味というか,むしろ悪影響がでかねない。
),また,
培養液(塩溶液)やシャーレを新しいものに交換するなどしてバクテリアが増え過ぎないように注意すれば,安定して
S. pyriformisを増やすことができる(この培養法は確立している。
この条件ですでに2年以上S. pyriformis の培養が継続できている)。
#9月以降もたくさんのシャーレでS. pyriformisの培養を試みたのだが,上記ような具合で,コンタミ藻の影響で
多くシャーレではS. pyriformisが死に絶えてしまった。ただし,コンタミの種類や量によって結果はまちまちだったので,
これらを写真撮影して保存しても無意味と考え,撮影せずに破棄してしまった(100枚以上)。
解決策その1:
解決策その2:液肥の濃度をさら下げたら,なんと!
今回は,このキロモナス+養命酒+KCMで増えたS. pyriformis の一部を液肥のみの条件
に移したのだが,これらは栄養分(有機物)をほとんど含まないので(
水耕栽培用のエコゲリラ,ハイポニカは無機塩類のみだが,HypoNexは,多少ともビタミンなど有機物を含んでいるはず
),予想通り従属栄養のバクテリアはほとんど増えなくなった(
ただし,S. pyriformisが出す老廃物が栄養となって多少ともバクテリアが増えるはず。また,かりに光合成バクテリアが混入していれば,
これが栄養分を作り出して他のバクテリアが増える可能性もある。
さらに後述するコンタミ藻類が作り出す養分もバクテリアを増やすことになる
)。
しかし,その替り,次第に微細藻類が目立つようになった
(
それまでの従属栄養生物が増えやすいキロモナス+養命酒から,
独立栄養生物が増えやすい水耕栽培用の塩溶液に移したのだから,これは当然
)。
キロモナス+養命酒+KCMの培養条件では,微細藻はわずかしかいなかったので,まったく気づかなかったが,
水耕栽培用の塩溶液に移されたことで,バクテリアが増殖しにくくなり,替りに藻類がさかんに増え出したのだ。
藻類は1,2ヵ月するとかなり増えてきた。
増え出した藻類は塩溶液を交換するごとにピペットで吸い出して取り除く作業を行った。
その際,シャーレに付着している藻はピペットでは取り除けないので,
シャーレも新しいもの(未使用の新品)に交換した。
これはかなり時間のかかる作業だが,混入した微細藻を完全に取り除くことはできなかった。
除去作業を行っても,どうしてもある程度の細胞数は残ってしまう。このため,いったん微細藻が増えだすと,
それらの除去作業を行ってから4,5日たつと,ふたたび大量増殖してしまうのだった。
混入している微細藻の種類にもよるが,これがS. pyriformis の増殖にかなりの悪影響を及ぼしているらしいことが
次第にわかってきた。
すぐに死んでしまうという訳ではないが,S. pyriformis は徐々に弱っていき,やがて分裂が止り,最終的には死滅してまうのだ。
微細藻が増えだしてからS. pyriformisの死滅が始まるまでに1,2ヵ月以上かかるので,
当初は,何が原因で弱るのか,理由がわからなかった。
もしかすると,やはり液肥だけでは基本的に増殖は不可能で,carry-over効果でわずかに1,2回分裂できるだけ
なのではと焦った。
なにしろ,2ヵ月後には学会で発表する予定で,講演申込みの時点では,液肥で順調に増えているように見えたので,
「S. pyriformisは独立栄養である」というタイトルで発表を申込んでしまったからだ。
もし,液肥では増えないとなると,講演内容を変更するか,最悪,中止せざるを得なくなる。
しかし,微細藻のコンタミが悪影響を及ぼしている可能性に気づいてからは,この影響を取り除くことに全力を尽くした。
結果,以下の2つの方法(解決策)で,微細藻の影響を排除し,
S. pyriformisが「独立栄養」であることを「強く示唆する結果」を得ることができた。
S. pyriformisを液肥で増やしているシャーレの多くには,これらの微細藻のコンタミが目立っていたが
微細藻のコンタミが増え出す前に,増殖したS. pyriformisの一部をビーカーによる培養に移してあった。
結果として,これが幸いした。
なぜか,シャーレでは活発に増殖していた微細藻のコンタミが,ビーカーではあまり増えず,悪影響がさほどなかったのだ。
この原因は水深の違いにあるかも知れない。
シャーレの水深は1cm以下だが,ビーカー培養では,塩溶液をたくさん入れてあり,水深が深くなっている(5cmかそれ以上)。
これよって水底の酸素濃度は違うはずで,これが影響しているかも知れない。
あるいは,シャーレはプラスチック製だが,ビーカーはガラス製なのが原因している可能性もある。
ガラス製のビーカーに水を入れて電気伝導度の変化を調べたが,数日たっても電気伝導度はゼロ(0 μS/cm)だった。
よってビーカーからなんらかの電解質が溶け出している可能性はほぼないが,
電解質以外のなんらかの成分が出て,それが微細藻の増殖を抑えている可能性は否定できない。
いずれにしても,ビーカーでは順調に増えていたので,このことで
「液肥だけでは基本的に増殖は不可能」かもという不安はある程度払拭することができた。
実験台の左側の様子;窓側
1枚目:カラーボックスの中段と,カラーボックスの右側にあるラック(上下2段)。
それぞれに500mlと200mlのビーカーが置いてある。その中で S. pyriformis を液肥(3種)で培養している。
2枚目:壁際のラックと実験台左端のラック。
壁際のラック(中,下段)では,ビーカーとシャーレ。左端のラック(中段)ではシャーレでS. pyriformisの培養を行っている。
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