平成8年度 教材の工夫と授業の改善
微小生物の培養・観察法

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3 参 考

3)アメーバの培養法

 アメ−バ・プロテウス(Amoeba proteus)の培養には,原生生物繊毛虫(テトラヒメナ,ゾウリムシ等)や,鞭毛虫(キロモナス等)を餌として用いる。

テトラヒメナによる培養
 テトラヒメナは,無菌培養が容易である。そのため,通常は無菌培養したものを,アメ−バ用のKCM塩溶液(前述)で洗ってから与える。テトラヒメナが適量与えられた場合,遅くとも1〜2時間以内には,ほぼすべての細胞が満腹になるまで食べる。テトラヒメナを餌として毎日与えた場合,最適条件で一日に約一回くらいの頻度で分裂する(実際にはこれより少ないことが多い)。テトラヒメナは無菌培養が容易なため大量に餌として確保できるので,アメーバの大量培養用の餌として適している。

文 献
Prescott, D.M. & James, T.W., Exptl. Cell Res. 8: 259- (1955)
Prescott, D.M., Exptl. Cell Res. 9: 328- (1955)
Griffin, J.L., Exptl. Cell Res. 21: 170- (196?)

 つぎに,このテトラヒメナを使った培養法を通常の培養と,短期間に大量培養する場合とに分けて紹介する。

通常の培養法 (室温での維持)
 通常は,2〜3日に一度位の頻度で餌を与える。あらかじめ餌を与える前に汚れた培養液の上半分くらいを捨てて(このときアメーバは底にいる),新しい培養液を補充してから餌を与える。テトラヒメナは,KCM塩溶液で洗ってから一日に食べつくせるくらいの量を与える。
 与える適量をどうやって判断するかだが,これは結局経験的に判断するしかない。一匹のアメーバは少なくとも4〜5匹,多ければ十数匹のテトラヒメナを食べて満腹になるので,アメーバの数に対して,十数倍の数のテトラヒメナがいれば充分ということになる。これ以上は,元気のよいアメーバ株なら多少多めでもやがて喰いつくすが,増殖の遅い株などの場合は,食べ残したテトラヒメナによって培養液が劣化してアメーバが死んでしまうこともあるので要注意。
 また,培養を続けていると,培養している細胞密度にもよるが,やがてシャーレの底がアメーバの出す糞や老廃物,それらを栄養源としてふえる雑菌等により汚れてくる。一般に,かなり汚れても培養液そのものの汚れに比べてアメーバに対する悪影響は少ないので焦ってシャーレを交換する必要はない。適宜取り替えればよい。取り替える際は,上澄みを半分ほど捨てた後,新しいシャーレに細胞を移し塩溶液を追加する。

実験に使用する際の培養法
 実験の際には,早く,生理的条件の整った細胞が大量に必要になる。この方法はそのような要求にあった培養法である。上記の方法でも大量培養は可能だが,できるかぎり早く細胞の増殖を促し,かつ細胞の生理的状態を揃えるには,以下のような方法をとる。
 この方法の「通常の培養法」との違いは,最初に培養液の交換をせず,餌を先に与えることにある。餌を与えた後,満腹になった細胞がシャーレの底にかたく接着する性質を利用して,その時点で,食べ残したテトラヒメナを残った培液とともにすべて捨ててしまう。その後,新鮮な培養液を与える。これにより,そこには満腹のアメーバと汚れていない培養液だけが残る。
 この方法では,餌を満腹になるまで食べさせた後,いっせいに餌を取り除いてしまうので,細胞の生理的条件が揃いやすい。また,この方法では培養液毎日完全に新鮮なものと交換するので,汚れの影響を排除できるためシャーレ当たりの細胞密度を上げて培養ができる。ただし,テトラヒメナによる培養は,増殖速度が早いと同時に,餌をあたえないでおくと,飢餓状態になり弱るのも速い。また,細胞密度が高いと細胞からでる老廃物などにより培養液が汚れやすくなる。室温では4〜5日以上培養液を交換せず餌も与えないでおくのは,危険である。
 この後は,「実験に使用する際の培養法」について,より詳しく解説する。

材 料
培養用容器:
 シャ−レ(通常は12 cm 前後のものを用いる。クロ−ニングなどを行なう場合は,デプレッションスライドなど小型の穴のなかで培養し,ある程度数が増えた時点で,小型のシャ−レ,中型のシャ−レと,順々にサイズを大きくしていく。)

培養用塩溶液:
 既述したが,KCM溶液を用いる。以下はその100倍原液である。これらを脱イオン水で100倍に希釈して用いる。
    KCl         0.8 g/L     1.6 g/2L
    CaCl2・2H2O   1.3         2.6
    MgSO4・7H2O   2.5         5.0

方 法
 アメ−バは培養液の汚れに対して極端に敏感なので,過剰に加えた餌は,早目に取り除くことが望ましい。このためには,アメ−バの摂食の最中,および直後は,接着性が増し,かなり強くシャ−レのガラス底に着く性質を利用する。アメーバがガラス底に接着している間にシャ−レをひっくり返して,旧くなった培養液とともに,食べ残された餌や,その他のゴミを捨てる。(空腹時にはガラス底に対する接着性が低下し,浮遊する細胞もでてくるほどなので,この方法は使えない。)

手 順
1)テトラヒメナは,三角フラスコで培養したもの(*)を,上記の塩溶液で洗い適当に希釈する。
この際,注意すべき点は,あまり培養してから時間のたったものは,用いないこと,また,テトラ細胞を集めるのに強い遠心をしないことである。いずれも,細胞の死骸,あるいは,弱った細胞が混じってくるので,これらがシャ−レの中で溶解すると,アメ−バがガラス底に接着しなくなるので,あとで培養液の交換を行なうのが難しくなる。
*:例えば,300〜500 mlの三角フラスコ(平底)に30〜50 ml程度の培養液を入れて培養する。空気と触れる面積を大きくとることで,酸欠が起こらないようにする。さもないと培養中に細胞の死骸が混じりアメーバ用の餌としては使いものにならなくなる。
2)アメ−バの入ったシャ−レに上記のテトラヒメナを満腹になるのに適当な量加える。
アメ−バの摂食は,直ちに始まるが,しばらくすると多くのテトラヒメナは,培養液表面に浮いてしまうので,早く摂食させたいときは,時々シャ−レを軽くゆすってテトラをシャ−レの底に移動させてやる。ただし,あまり激しく,かつ,頻繁にやるとアメ−バ自身がシャ−レに接着できなくなり摂食不能になるので,適当に。
3)アメ−バ全部が満腹になったころを見計らって,培養液の交換を行なう。
上記の方法では,約1時間以内には,ほぼすべての細胞がテトラ細胞を食べ終える。満腹になったアメ−バ細胞は,内部に沢山のテトラヒメナを入れた状態で,丸くなり,シャ−レの底に接着して動かなくなる。この時に古くなった培養液とともに余分のテトラヒメナをシャ−レをひっくり返して捨てる。その後,これに新しい塩溶液を加える。
 ただし,アメ−バの数が多い場合,あるいは,培養の状態が良好でない場合は,一部のアメ−バは,摂食をしないか,あるいは,摂食した後も浮遊したままでいることがある。その場合は,余分であれば,培養液の交換の際に一緒に捨てればよいが,捨てないで使いたいという時は,細胞の一部をいったん他のシャ−レに移して,新しい塩溶液を加える。細胞密度が高すぎてうまく接着できなかっただけであれば,ただちに接着するので,接着後,新ためて培養液の交換を行なえばよい。しかし,細胞が弱っていて接着できないのであれば,シャ−レを替えても接着できないので,その際はあきらめて捨てる。

**アメ−バを早く増やしたいときは,給餌および培養液の交換を毎日行なうが,そうでなければ1日,2日おきでもかまわない。3日おきでもほぼ問題はないが,良好なコンディションで培養したいときは,少なくとも1日,2日おきには餌を与えたほうがよい。
**また,何日かすると,シャ−レの底が老廃物や雑菌の繁殖により汚れてくる。底の汚れは培養液の汚れに比べてアメーバへの悪影響はない。したがって,アメ−バのコンディションが良い場合は,多少汚れても特に頻繁にシャ−レ交換をする必要はない。しかし,アメ−バの死骸が混じってきたり,正常な浮遊型でないものがたくさんでている場合は,早目にシャ−レを新しいものと交換したほうがよい。
 シャ−レの交換は,餌を与える前に行なう。前述したように,空腹時のアメーバは底への接着性が弱いのでシャ−レを軽くたたけば底にくっついているものを浮遊させることができる。そうして,すべてのアメ−バを汚れた培養液ととも新しいシャ−レに移しかえる。その後,餌(テトラヒメナ等)を食べさせアメ−バが底に接着するのを待って,培養液の交換を行なう。


つぎは,以前行なっていた方法で,米粒とキロモナスという鞭毛虫の一種を使った培養法を紹介する。これは簡易培養法の一種で,手間はかからないが,培養条件は培養器ごとに異なってしまい,安定しない。また,細胞密度も低いので通常の実験には利用しにくい。

キロモナスによる培養
 キロモナス(Chilomonas paramecium:クリプト藻類の一種)は,別に培養したものを,テトラヒメナ同様アメ−バ用の塩溶液で洗ってから与えてもよいが,下記のように米粒と一緒にしてアメーバの培養器(シャーレ)に入れておく方が手間がかからない。いずれの場合でも,キロモナスを餌にした場合はアメ−バは一度に満腹になるまで餌を食べることはない。このため,テトラヒメナを餌にした場合に比べると,分裂頻度は良くないし,細胞のコンディションも揃いにくいので,生理的条件の揃った細胞が要求される実験には適していない。
 とはいえ,白米を2〜3粒アメ−バの入ったシャ−レに入れ,これにキロモナスを加えておくだけで,うまくいくと白米から少しずつ浸みだす養分で,キロモナスが増え,それを食べてアメ−バが増えるという関係が成立する(混入する雑菌等によってはうまくいかないこともある)。そうなれば,長期間(ただし,1カ月以内;室温)餌を与えずに維持することができる。手間をかけずに複数の系統を保存・維持したい場合には有効かも知れない(?)。
 なお,ここではキロモナスを餌とした例を紹介したが,基本的にはアメーバが捕食可能でかつ米粒などで長期間安定して増殖できる微生物であれば何でもよいであろう。


系統保存
 テトラヒメナで培養したものを長期間餌を与えずに保存したい場合は,最初に餌をほどほどに与えた後,16°C前後の恒温庫へ入れる。この場合,シャーレ中のアメーバ細胞はあまり多くないほうがよい。たくさんの細胞がいれると,たくさんの餌を与えなければならず,それだけ培養液が劣化するのも早まるからである。
 この方法では約1カ月弱の間手をかけずに保存することができる。しかし,まれにシャーレによっては途中で全滅してしまうこともあるので,同じ株について,ある程度余分な数のシャ−レを容易する必要がある。株によっては低温を好むものとあまり低いとすぐに弱ってしまうものがある。10°C以下では死滅するので,恒温庫が冷えすぎないように注意する必要がある。

 キロモナスで混合培養する際一番,アメ−バにとってよい条件は,米つぶに水カビがつくことである。水カビがなぜいいのかはハッキリしていないが,おそらくカビの存在によって,アメ−バにとって有害な物質をだすバクテリアの増殖が押さえられるためと思われる。いったん,水カビがついてしまえば,常に培養液中にカビの胞子があるので,カビの維持を気にかけることなく,ふるくなった米つぶなどは培養液ととも捨てればよい。(1カ月に一度くらい。)
 この他,テトラで飼ったアメ−バを,半乾燥の状態で1カ月以上保存できたとする報告もあるが,今のところ試していない。

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