1 原生生物の扱い方
5)細胞の集め方
肉眼(もしくは実体顕微鏡 x40程度)では培養器にたくさんの原生生物がいるように見えても,それらをそのままスライドガラスの上にのせて光学顕微鏡で拡大したのでは,細胞はほとんど視野の中に入らない。そのため,顕微綱観察の前には培養した細胞を集める(細胞密度を上げる)作業が必要になる。通常は,遠心機を用いることが多い。細胞の大きさやその運動性にもよるが,卓上型低速遠心機で500〜1000 rpm程度の回転速度を用いる。あまり高速だと遠心力が強すぎて細胞がダメージを受ける恐れがある。逆に,低速すぎても細胞が沈澱しないので,各素材ごとに適当な速さを選択する。
手廻し遠心機
卓上型遠心機は価格もそれなりにする上,場所をとる。そこで,微量のサンプルを扱う場合は,より簡単な手廻し遠心機を用いた方が便利である。手廻し遠心機は1〜2万円余で購入できる上,実験テーブルなどの端に簡単に取り付けられる。これでも卓上遠心機とほぼ同程度の遠心力を手動で発生させることができる。ただし,遠心部の覆いや,故障した際の安全設備が付属していないので,使用の際は十分に注意しなくてはならない。
遠心機がない場合はどのようにして細胞を集めるか?これには色々な方法が考えられるが,もっとも手軽なのは「漉紙をもちいた方法」であろう。扱う生物により濾紙のタイプ(濾過する粒子のサイズの違いによる)を使い分ける必要があるが,適当な濾紙があれば,かなり効果的に細胞を集める(細胞密度を上げる)ことができる。ここでは一例としてゾウリムシの場合を紹介する。
例:ろ紙を利用したゾウリムシの集め方
1 細胞とゴミの分離
まず,培養の定常期に入ったものは,底にたくさんのバクテリアのかたまりが沈澱している。ほとんどゴミだが,これらを除くためにフラスコを斜めにしてしばらくおく。(斜めにするには,試験管立てを横にしてそこにフラスコを置く。)すると,ゴミはフラスコの片隅に集まるので,これらがなるべく混じらないように気をつけながら,ロ−トに乗せた8枚くらい重ねたガ−ゼの上に培養液を注ぐ。
2 ろ紙による細胞の濃縮と洗浄
つぎに,ろ紙をひだ状に折ったものをロ−トにのせる(東洋ろ紙の場合,NO. 1 (240 mm) ;ただし,これはゾウリムシでの話。細胞のサイズがもっと小さい種類では当然より目の細かいものにしないと漏れてきてしまう。)。これに細胞の入った培養液を注いでいく。このとき,ロ−トとろ紙が密着すると,液が落ちにくくなるので,ロ−トは,溝のついたものを用いる。
この条件だと,3〜4リットルの培養液だと,数分で細胞を集める(濃縮する)ことができる。集めた後,細胞を洗いたい場合は,洗浄用の緩衝液を少しずつロ−トにいれてやり,培養液と置換する。
この方法のポイント
この方法で問題なのは培養液に含まれる浮遊性の微細な雑菌塊である。これが多いと濾紙が目詰まりして漉過に時間がかかる。場合によってはいつまでたっても濃縮できないこともある。その場合は,新しい漉紙に移して濾過を続ける。
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