原生生物と日本産アリ類の広域画像データベース
1 日本産アリ類カラー画像データベース作成の経緯
1-6 データベースの価値とは?
以上のように,日本産アリ類の分類データベースの活動は,これまで概ね順調に推移してきている。しかし,データベース化作業を続けていく過程で様々な議論を重ねた結果,いくつかの問題点が浮び上がってきた。その中でも,一番問題になったのが,作成したデータベースの学術的価値についてである。
それは果たして将来にわたって残されるものはデータベースのどの部分なのか,というものであった。なぜなら,分類の記載や種名などは研究の進展より変更されることがあるからである。変更があった場合は,それに応じてデータベースの記載や,場合によってはファイル構成などを改訂していかねばならない。しかし,それにはそれなりの時間とエネルギーが必要であり,仮に,様々な理由でそのような改訂ができなくなったとすれば,その時点で,これまで構築してきたデータベースの学術的価値は部分的にではあれ,損なわれてしまう。
しかし,仮にそうなったとしても,データベースのすべての価値が失われるわけではない。データベースで一番最後まで残るのは何か?すなわち,研究の進展よって新たな成果が生まれ,旧い記載が破棄されたとしても,データベースの中で最後まで変わらずにあるものはないのだろうか?そういった議論の中で気付いたのは,画像や測定値等の素材データこそが,データベースの中で最も存在意義のあるものであるということだった。これらは,事実そのものの記録である以上,種名やその記載が変わっても最後まで変化することはない。
データベースを作る上では,当面の研究成果を盛り込むことも大切ではあるが,それ以上に,それらの研究成果を生む元となった素材情報(画像や標本の測定値等)を重視すべきである,という結論に到達したのである。
次章では,ネットワーク上における研究素材情報データベースの学術的意義について論じることにする。また,次々章では,その一例として構築した「原生生物情報サーバ」について紹介する。