研究資材データベース構築&公開ガイド
back 2-4. 学術情報としての質の維持 forward

 民間企業のWebサイトは,驚くほど美しく,あるいは凝った作りのものが多い。これは,企業側がWeb pagesを広告媒体と捉えているのであれば当然のことではある。これらのWeb pagesの多くは,Web pages のデザインを専門とする業者に委託して制作されているはずである。
 大学や研究所などのWebサイトもWebデザイナーに委託して制作されている場合もあるが,個々の研究者,あるいは研究グループが作るサイトでそのような業者委託をしているケースは稀である。よほど潤沢な資金がなければ委託することは到底無理であろう。

 とはいえ,企業のWebサイトとは異なり,ボランティア的に学術情報を発信することを目的とする「研究資材データベース」においては,見栄えの善し悪しはさほど重要なことではない。
 一番重要なのは,発信される情報の学術的価値の高さであり,さらには,その利用価値の高さである。一言でいえば,学術情報としての質の高さこそが最重要なのである。

 学術的価値の高さについては,個々のデータベース制作者の努力に頼る以外にないが,利用価値の高さを維持することに関しては,いくつかの一般的な留意点を指摘することができる。

高精細画像の提供

 既述したように,研究資材データベースを作る目的は,たんに画面を見て読んで学習に役立ててもらうことだけではなく,公開した画像やその他の情報を他の様々な研究/教育活動に積極的に役立ててもらうことにある。そのような目的を考慮すれば,おのずと提供すべき情報に求められる質がどの程度かがわかる。

 一般のWebサイトにも画像(写真など)を貼付けたWeb pagesが無数に見られるが,そのほとんどは画面上で画像を見ることのみを目的として作成されている。一部には画像をクリックすると,その拡大画像が表示されるものもあるが,その拡大率はせいぜい2x2, 4x4倍程度でしかない。それらは,元の画像のサイズでは細部がわかりにくいために拡大したものであり,あくまでモニタ画面上で画像を確認することを想定して拡大率が設定されている。

 しかし,モニタ画面では一見細部が見えているように感じても,これらを印刷すると肌理が粗すぎて,そのままでは印刷に耐える画質ではないことがわかる。これは,印刷(あるいは写真)の解像度(600 dpiまたはそれ以上)がモニタ画面の解像度(72 dpi)に比べて圧倒的に高いことが原因である。

 600 dpiの解像度をもつプリンタで72 dpiの解像度しかない画像を印刷した場合,本来であれば1インチ幅に600個の小さな点が打てるにもかかわらず72個分の情報しか提供できないことを意味する。そのため,点のサイズを大きくして72個で1インチ幅になるようにするか,あるいは,点のサイズは変えず,代りに1インチ幅に600個の点が打てるようになるまで画像のサイズを縮めるか,いずれかの方法をとらざるをえなくなる。前者の場合,小さな点で描けば滑らかな曲線に見えるものが,大きな点で描くためギザギザの線となってしまうのである。

 印刷に耐える画像を提供するには,モニタ画面に表示させた画像のすくなくとも8x8〜16x16倍程度の大きなファイルサイズのものを用意する必要がある。
 これを実現するためには,たとえば,イメージスキャナで写真などから画像を取り込むのであれば,プリンタと同じ解像度,すなわち600 dpiまたはそれ以上の設定で画像を取り込めばよい。写真店等に委託して行なう画像のデジタル化サービス(PhotoCD service )を利用すれば,ネガの 2x2, 4x4, 8x8, 16x16, 32x32倍の大きさの画像ファイルが同時についてくるが,大きなファイルサイズの画像は始めから印刷用として利用することを前提として準備されているものである。
→参考:「学術標本画像データベース作成の指針

画像の客観性

 学術情報としての利用価値を高めるためには,高精細画像を準備する以外にも様々な留意点がある。
 一般のWebサイトで画像を公開するのであれば,画像の美しさや一目をひくなんらかの要素を含んでいることが大切であろう。そのため,場合によっては,自然の写真であっても,画質を変えるなど様々な修正を施すこともある。
 しかし,客観性がなにより重視される学術情報の場合,見栄えの善し悪しはさほど重要なことではない。それよりも,いかに元の標本の状態を正確に記録してあるかが,その利用価値を決める重要なポイントになるので,画像に修正を加えるのは,かえって好ましくない,といえる。

明度/色調
  ただし,画像の明るさは,写真の撮影〜現像時の条件や,デジタル化される際の設定の違いで変化してしまうので,デジタル画像があまりに暗すぎる場合,画像全体の明度を上げて見やすくする,程度の修正は問題ないはずである。また,顕微鏡写真では,もともと撮影時の光の強さや倍率など,様々な撮影条件の違いで,写真の色調がかなり変化して,顕微鏡で観察した時の印象と異なってしまう場合が多い。このような画像については,顕微鏡を覗いた時の印象により近付けるために,色調などを補正した方が良い場合もある。

歪みを防ぐ
 標本の形態的特徴をより正確に記録するためには,撮影時の条件にも工夫する必要がある。レンズを通して画像を撮影すると,レンズの周辺部分を経由する画像に歪み(収差)が発生する可能性がある。画像の各部のサイズを正確に記録したいのであれば,この歪みを極力防ぐ必要があるが,撮影後に歪みを補正するのは難しい。そのため,あらかじめ歪みが発生しにくい条件で撮影する方がよい。
 例:「哺乳類頭骸画像データベース」(獨協大)では,この問題を解決するために画像の歪みを極力抑えた特殊な撮影法を開発して撮影を行なっている。

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