平成10年度知的基盤整備推進制度
「生物系研究資材のデータベース化及びネットワークシステム構築のための基盤的研究開発」
2-1. 生物資材情報発信のためのWWWサーバ構築サポートシステムに関する研究

PREV | NEXT

3-5. 今後の問題

3-5-3. 公開データをバックアップ(Archive)する必要性について

 我々のグループは,原生生物データベース(原生生物情報サーバ)以外にも,日本産アリ類カラー画像データベース(http://ant.fujimi.hosei.ac.jp/Ant.www/htmls/index.html),アサガオ画像データベース(http://protist.i.hosei.ac.jp/Yoneda/menu.html)の構築にも関与している。また,総研大の「生物形態資料画像データベース」(http://taxa.soken.ac.jp/)プロジェクトの一員として,他の様々な生物のデータベース構築にも協力している。

 これらの活動を通じて,近年強く感じるのは,データベースに限らず一般に学術情報をネットワーク上で公開する活動をさかんにするには,公開されたデータを公的機関がバックアップする必要性がある,ということである。その理由を以下に述べる。

 従来,印刷技術は,学術情報の伝達・保存ための媒体として,科学活動を支える重要な役割を担ってきた。すなわち,印刷メディアを介して,学術情報の「生産」は研究者が行ない,その「発信」は出版社が行なう,という社会的分業が確立している。また,その「保存」は,大学図書館が担当している。研究者は大学図書館に保存された学術文献を基に,次の学術情報の生産を行なう。この生産→発信→保存のサイクルによって学術研究・教育活動が保障されているのは周知のとおりである。



印刷メディアとネットメディアにおける学術情報の流れ
ネットメディア上で発信されるのは印刷メディアとの競合から素材情報が中心になると思われる
1997年度川渡合同セミナー報告より

 しかし,ネットワークメディアにおいては,いまだそのようなサイクルは確立していない。ネットメディアでは,学術情報の「生産」と「発信」が研究者みずからの手で行なえる点がマスメディアと大きく異なる。しかし,そのようにボランティア的にネット上で発信された情報は,そのままでは,残念ながら,大学図書館にある学術文献のようには利用できない。なぜならば,研究者個人が自らの情報を永続的に発信し続けることは不可能だからである。そのような永続性のない情報は,他の学術文献等で引用するわけにはいかない。この永続性がないために他で引用できないという単純な理由によって,ネット上で公開された学術情報は現状では「学術情報」としての価値を発揮できないでいる(ただし,DNAデータベースのように公的機関がその永続性を保証しているものは例外である)。

 したがって,今後は,印刷メディアにおける大学図書館と同様,ネットメディアにおいて発信された学術情報を恒久的に「保存」する公的機関の設置が望まれる。現在は,そのような公的機関がないために,ボランティア的に発信された学術情報の多くは次第に消滅し,結果的に無用なものとなっている。また,ひるがえって,このことが他のより多くの研究者が自らが所持する学術情報を自らの手で発信しようとする意欲を失わせているともいえる。すなわち,公的機関によって恒久的に保存されないものは,その内容のいかんに関わらず学術情報としての利用価値はなく,それ故,そのような情報発信活動は「研究業績」として認められないからである。業績にならなければ,研究者にそれ(ネット上での学術情報の公開)を望むのはむずかしい。

 以上のように,今後,研究者が各自の持つ学術情報を積極的にネット上で公開するようになるためには,公開したものが業績として評価される必要があり,そのためにはなによりもまず,それらを公的な機関が恒久的に保存(バックアップ)する体制が必要である。その準備を早急に進めるべきである。

PREV | NEXT